一筆の墨が山になり、
ひとひらの紅が秋になる。

スクロール

墨は、静けさを描く。

白い紙の上、
枝は言葉より先に伸びてゆく。
迷いのない一筆が、幹になる。

一 | 墨

紅は、時を染める。

墨の枝に、秋がともる。
緑が燃えて紅になるまでの、
ほんのひとときを閉じこめて。

二 | 紅

葉は、風に還る。

灯しおえた紅を、風に手放す。
身軽になった枝は、
もう次の春を知っている。

三 | 散

霧の谷に、秋が満ちる。

遠くの山は墨に沈み、
近くの楓は紅に浮かぶ。

紅葉に覆われた石段の参道の墨絵

紅の参道

石段はゆるやかに、門へつづく。
見上げるたび、紅が濃くなる。

― ひと足ごとに、秋が深まる

紅葉に包まれた清水の舞台の墨絵

清水の舞台、紅の頃

高い舞台は、景色のためにある。
都を見おろす欄干に、
ひとひらの紅が先に着いていた。

― 欄干に、ひとひら

葉は散りても、根は眠らず。

また、の季節に。